コーヒー豆の長い旅路
コーヒー豆の長い旅路
イタリアの港町トリエステの焙煎工場へ向かう生豆の旅は、原産国で60キロ入りの麻袋に詰められるところから始まります。麻袋の内側や麻袋同士の間は、空気が循環するように精密に調整されますが、これによって船旅の間にカビが生えるリスクを回避することができます。
コーヒー豆の輸送に関するillyの知識は他に並ぶものがありません。その独自の方法のおかげで、原産国からillyの本拠地であるトリエステの港まで、生豆の品質はまったく損なわれることがありません。
トリエステに到着すると、すべての豆袋に番号がつけられ、検査の準備が進められます。豆を振動するスクリーンの上に並べ、選別工程が始まります。このスクリーンは大きなふるいの役目を果たし、異物を選り分けます。さらに真空装置が微粒子を除去し、磁気式分離機が金属片を取り除きます。最後に、最新式の画像装置が個々の豆を「撮影」し、発酵した豆、未熟な豆、その他不適な豆すべてを取り除きます。では、なぜそれほど厳格な検査を行うのでしょうか。それは、50粒の中にたった1粒の不完全な豆が混じっているだけで、コーヒーカップの中のエスプレッソは台無しになってしまうからです。illyが検査を行う豆の量は1日当たり45トンです。
illyは焙煎前に9種類の異なるアラビカ豆をブレンドします。それによって、焙煎機の熱によってそれぞれの豆の異なる特性が、同じスピードで引き出されます。これこそが、illyブレンドがどの缶もすぐれた一貫性を保っている秘密なのです。
ブレンドとはまさしく芸術です。さまざまな原産地からやってきた豆は異なるアロマを持ち、苦味、甘味、コクのバランスもまちまちです。それらを調整して全体のハーモニーを作り出すためには、まさに熟練の技が必要なのです。
コーヒーの収穫の状況は毎年変わり、同じ品種の豆でも年によって異なる特色が生まれます。したがって、ブレンドに際しても、融通性の無い処方をただ当てはめる訳にはいきません。9種類の豆のそれぞれがどのように影響し合うかを考え、それぞれの豆が果たす役割を理解することが求められます。言い換えれば、逆説的に聞こえるかもしれませんが、illyは多様性を理解し、受け入れることで一貫性を実現しているのです。つまり、「同じ結果を、異なる手段で」なのです。
焙煎はコーヒーというドラマのクライマックスです。加熱することでドラマは佳境を迎え、800もの成分が出現、そのそれぞれがillyブレンドの味と香りを作りあげるのです。
回転する大型ドラムの中で、コーヒーは約200℃に加熱されます。熱はまず豆を乾燥させ、続いて黄金の色に変え、焙じた香りを生み出します。
焙煎が進むにつれ、豆の体積は約60%増え、明るい茶色に変わり始めます。
第3段階になると、豆はあのお馴染みの深みのある茶色となります。重量は約18%減少し、脆くなります。
この工程は絶妙なタイミングで終了させなければなりません。焙煎し過ぎると、不可欠な揮発性の香り成分が破壊され、酸味と苦味の理想的なバランスが崩れてしまうからです。
焙煎が完了すると、正確な計測にもとづく、重要な空冷工程に入ります。この工程によって、文字どおり豆の熱変性の進行がストップし、それによって本来の香りが守られ、ブレンドが最高の状態に保たれるのです。豆は着実かつ必須の作用として、焙煎後何日間も二酸化炭素ガスを発生し続けます。